そのままの君が好きだよ
「何度でも言います。わたくしがあなたと婚約することはあり得ませんわ。
あなたが今後、国王になることも――――ジャンルカ殿下は王の器じゃございませんもの。
わたくしは、次の国王にはサムエレ殿下こそ相応しいと思います」


 キッパリとそう言い放ち、わたくしは大きく息を吸う。


(ここまで来てようやく分かった)


 ジャンルカ殿下は承認欲求と劣等感の塊だ。努力も碌にしない癖に、誰かに認められたい、一番になりたいだなんて――――そんな人が王になれる筈もない。


(サムエレ殿下は『わたくしは何も悪くない』と言ってくださったけれど)


 わたくしは婚約者として、彼を正しく導くことが出来なかった。歪で空っぽな彼の器に必要なものを注ぐことが出来なかった。それこそがわたくしの、最大の失敗だと気づく。

 その時、ジャンルカ殿下が腕を大きく振り被った。月明かりを背に、彼の影が大きく動く。わたくしは静かに目を瞑った。


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