そのままの君が好きだよ
(サムエレ様……!)


 恐怖心を胸に、わたくしはグッと歯を喰いしばる。


「ぐぁっ」


 けれどその時、痛みの代わりに低い唸り声が上がった。バタバタと数人の足音が鳴り響く。恐る恐る目を開けると、ジャンルカ殿下はギリリと腕を捻り上げられ、床に尻もちを付いていた。


「遅くなってごめん、ディアーナ」


 その瞬間、目頭がグッと熱くなる。わたくしを助けてくれたのは他でもない――――サムエレ殿下だった。ジャンルカ殿下を騎士達に引き渡し、彼は急いでわたくしに駆け寄る。涙がポロポロと零れ落ちた。張り詰めていた緊張の糸が切れて、堰を切ったみたいに止まらなくなる。


「サムエレ様」


 まるで迷子になった子どものように、わたくしは殿下の――――サムエレ様の名前を呼び続ける。彼は目を丸くし、わたくしをギュッと抱き寄せた。優しくて温かいサムエレ様の香りがわたくしをそっと包み込む。二人分の鼓動の音を聞きながら、わたくしはギュッと目を瞑った。
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