そのままの君が好きだよ
 その瞬間、わたくしは素っ頓狂な声を上げた。サムエレ様はどこか気まずそうな表情で、わたくしのことを見つめている。


(本当に?)


 サムエレ様が――――いつだって自信に満ち溢れ、明朗快活なあのサムエレ様が、わたくしのために心を揺らしている。


(わたくしがジャンルカ殿下ともう一度婚約するのが嫌だから)


 そう思うだけで、身体の中心が恐ろしい程に熱くなった。


「だからね……俺はディアーナと兄上を、どうしても会わせたくなかったんだ」


 そう言ってサムエレ様は顔を真っ赤に染め上げる。胸が甘くと疼き、心臓がドキドキと鳴り響いた。


「誤解です。わたくしは、ジャンルカ殿下のことはもう…………」


 というより、最初からわたくしは、ジャンルカ殿下を想ってはいなかったのだと思う。婚約者だから――――次期国王だから、側に居ただけ。完全なる政略結婚だし、当然と言えば当然だけれど。


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