ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?

 だって、アルベールが誰よりも優しくて、誰よりも優秀な騎士だってこと、私は知っている。

「感謝の気持ち……」

 宝箱に仕舞い込んだ、他の宝石とは違って、少し安っぽい髪飾り。アルベールの瞳の色をしたビジューがついたそれは、宝箱の中で一番大切な私の宝物だ。

 きっと、それが私にとっての本当だ。

 思い立った私は、今度のアルベールの誕生日に、贈り物をすることに決めた。

 使うタイミングなく貯まる一方のお小遣いを、一気に使って奮発したのは、ブローチに一度だけ命の危機を救う魔法陣を閉じ込めた逸品だ。

 真ん中に宝石がはめられているけれど、インクルージョンを含んだ石は、宝石としての価値が低い。
 でも、普通なら宝石としての価値を下げるそのインクルージョンは、精霊がこぼした涙が成分らしい。

 これなら、普通のブローチにしか見えないよね。見た目だけならそれほど高く見えないもの。

 だから、きっと、辺境伯令嬢が、日頃のお礼に贈ったとしても、周囲に怪しまれることなんてない。

「……あれ? 私は、いつのまに、こんなに高価なものを用意してしまったのかな?」

 気がつけば、貯め込んでいたお小遣いのほとんどが、消えていた。

 けれど、ブローチは、アルベールの誕生日に渡すことはできなかった。その前に、辺境伯領は、北極星の魔女により、甚大な被害を被ってしまったから。
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