ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?

 ***

 北極星の魔女により、領地の北端が壊滅した。
 その第一報が入った夜、アルベールが私の部屋を訪れた。

 ……こんな夜に、部屋に来るなんて初めてよね?

「……あの、アルベール」
「は……」

 いつもの返事なのに、その瞳にはもう、冷たすぎるブリザードは吹き荒れていない。
 うれしいことのはずなのに、なぜだろう私の胸は不安のあまり締めつけられる。

「アルベール、どうしたの」
「お暇をいただきたく……」

 信じられないような言葉を告げたアルベール。

「どうして? …………そんなに嫌になったの」
「いいえ」
「…………わ、わかったわ。いつ」
「これからすぐに、ここを離れます」

 おそらくアルベールは、これから未曾有の災害に陥るだろうコースター辺境伯を見限るのだろう。
 それが、普通に行き着く考えのはずだ。

 それなのに、なんなの、この不安は?

 私は、信じてしまっているらしい。
 アルベールが、苦境に陥ったからと、仲間や主人を見捨ててしまうような人間ではないことを。
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