ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?
その質問に対する答えはなかった。
その代わり、私の頭をポンポンと2回やさしく叩いてセイグルは出陣した。
不肖の弟子なんて、一人しかいない。
それに、王立騎士団を現在率いているのは、アルベールだ。
「……なぜ、戻って来たの?」
どこか、非現実的な毎日の中、アルベールの活躍だけは、毎日耳に入る。
ある時は勇敢に、ある時は仲間を救って。
庭に飛び出した私は、あの日アルベールが差し出してくれた、薔薇の垣根の前でしゃがみ込む。
今は、もう薔薇の花は蕾すらつけていない。
私は、なんの力もなくて、守られているばかりだ。
「アルベール」
やっぱり、初夏の日差しに微笑んだように見えた笑顔は、本物だったんじゃないかと思う。
それと同時に、やっぱり嫌われていたんじゃないかとも。
「……好き」
その気持ちを心の奥底に押し込んで、私は立ち上がった。
「アルベールが、戦うなら」
バサバサと、たくさんの本を積み上げる。
私には、戦う力はないから。
だから、この領地のために、できることを全部する。
「……アルベール」
ただ、生きていてほしいと思った。
私のこと、嫌いでもかまわない。
それから三年。
私とアルベールが、顔を合わせることは一度もないまま……。
北極星の魔女は、倒されて、英雄は王都に帰還した。