ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?
「――――そこまで、魅力がないのかしら?」
私としては、領民のことを思ってくれて、一緒に辺境伯領を立て直してくれる人なら、そこまでえり好みするつもりはないのに……。
「いっ、いいえ! ミラベルお嬢様は、誰よりもお美しいです」
「でも、結婚相手を探し始めてから、まったく婚約の打診がなかったわ」
そんな会話があったその日、私の元に一枚の釣書が届いた。
お父様は、疲れ切っていたけれど、なぜか嬉しそうだった。
そんなにも、条件の良いお相手だったのだろうか?
領民たちの生活が少しでも良くなるならよかった、という正直な気持ちと、ちらちら浮かんで消えてくれない一文字の声。
私の元に届いた婚約打診の釣書には、お相手の名前が記入されていなかった。