ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?
えぇ……。本当の話なんだろうか。
北極星の魔女の力で、記憶を改ざんされているのでは。
だって、演技になんて見えなかったのに。
たくさんの思いが、濁流のように流れては消えていく。
でも、知っていた。
『は?』と『は』しか言わないくせに、いつも絶対、私のことを一番に優先してくれていたこと。
いつも、私のことを守っていてくれていたこと。
だから、あなたが私の前からいなくなった時、全部諦めたのに。
それなのに。
「諦めたはずだったのに。こんな命を救う魔法陣が施された、当時のあなたにとっても、餞別程度ではないはずのブローチを渡されていたなんて気がついたら……」
「――――私」
「諦められるはずなんて、ない」
王命による政略結婚の釣書には、名前がない。
そして、部屋にはまだ誰の名前も書いていない婚約誓約書が用意されている。
「ちなみに、北極星の魔女を討伐した褒賞として、あなたを望んだので、逃げられませんよ」
「えっ?」
やっぱり、無表情でそんなことを言ってのける、以前より格段に言葉数の多い私の元護衛騎士。
「本当に? 私のこと嫌いじゃないの?」
「は…………。いや……、もう気持ちを隠さなくていいんだ。愛しています、結婚してください」
「――――えっと、恋人から?」
「そんなかわいいことを言って煽らないで下さい」
「……え?」
よくわからないのに、嫌われていなかった事実を知った私に生まれた感情は、うれしい、ただそれだけで……。
気がついたら、誓いみたいな口づけとともに、婚約誓約書には、私たち二人の名前が、仲良く並んでいた。