ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?
「アルベール殿。お嬢様のお手を煩わせてはいけません」
「………………わかりました」
最後に、執事セイグルにたしなめられると、しぶしぶ、本当にしぶしぶというように、アルベールは着替えに行った。
護衛をしている時間帯、アルベールは私から離れることを、ものすごく嫌がる。
職務怠慢なんて、誰も思わないのに、アルベールは真面目過ぎるのではないだろうか。
それより気になるのは、アルベールは、私には「は」か「は?」しか言わないのに、セイグルとはきちんと会話をしているということだ。
どれだけ嫌われているの、私……。
それなのに、私専属の護衛騎士に任命なんてされてしまって、苦痛ではないのだろうか?
「ね、セイグル……。護衛の件だけれど」
「おそらく変更すると、死者が出ると思われます」
「は。なにそれ、怖い」
穏やかな笑顔のまま、不穏すぎる言葉を発したセイグル。
もちろん、聞き間違いに違いないけれど、私は護衛騎士の交代について考えることを、いったん保留にすることにした。
そのあと、最速かな? というくらいのスピードで、着替えてきたアルベールは、濡れた髪のまま私の後ろに立った。
「ねぇ、アルベール」
「は……」
「ちょっとそこに座って」
「は……?」
持ってきた椅子にアルベールを強引に座らせる。
私は、持ってきたタオルで、アルベールの髪の毛をごしごしと拭き始めた。
アルベールの柔らかい金色の髪の毛が、水滴と一緒に輝いてとてもきれいだ。