ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?

「びしょ濡れのままでは、風邪をひいてしまうわ」
「っ…………。は」

 拒否されるかな? と思ったのに、アルベールは、黙って拭かれている。
 いつも、言葉と視線は冷たさで凍り付きそうなのにもかかわらず、こういう時はなぜか素直なことが多い。
 タオルの影のせいか、零れ落ちる雫の反射か、アルベールの口元が少しだけ緩んでいる気がする。
 雨に濡れた愛犬を、拭いているような楽しさに、自然と笑顔になる。
 だから、ほんの少しだけ、気分が上がって口が滑ってしまった。

「アルベールが風邪をひいてしまったら、私、悲しいもの」

 マントを借りた手前、風邪など引かれてしまったら、罪悪感で夜中うなされそうだ。

「………………は?」

 その視線は、たぶん真冬の吹雪よりも冷たいに違いない。
 そして、その声音も。
 それなのに、よっぽど冷え切ってしまったせいか、耳が少し赤いアルベール。

 んっと……。いつも鍛えている騎士様相手に、雨に濡れたくらいで、風邪をひかないか心配するなんて、もしかしたら失礼なことだっただろうか?

 自分の言葉の配慮のなさに、若干の申し訳なさを感じつつ、上目遣いに見つめていた私は、今日も露骨に目を逸らされたのだった。
< 8 / 45 >

この作品をシェア

pagetop