ところで、政略結婚のお相手の釣書が、私のこと嫌いなはずの『元』護衛騎士としか思えないのですが?
「びしょ濡れのままでは、風邪をひいてしまうわ」
「っ…………。は」
拒否されるかな? と思ったのに、アルベールは、黙って拭かれている。
いつも、言葉と視線は冷たさで凍り付きそうなのにもかかわらず、こういう時はなぜか素直なことが多い。
タオルの影のせいか、零れ落ちる雫の反射か、アルベールの口元が少しだけ緩んでいる気がする。
雨に濡れた愛犬を、拭いているような楽しさに、自然と笑顔になる。
だから、ほんの少しだけ、気分が上がって口が滑ってしまった。
「アルベールが風邪をひいてしまったら、私、悲しいもの」
マントを借りた手前、風邪など引かれてしまったら、罪悪感で夜中うなされそうだ。
「………………は?」
その視線は、たぶん真冬の吹雪よりも冷たいに違いない。
そして、その声音も。
それなのに、よっぽど冷え切ってしまったせいか、耳が少し赤いアルベール。
んっと……。いつも鍛えている騎士様相手に、雨に濡れたくらいで、風邪をひかないか心配するなんて、もしかしたら失礼なことだっただろうか?
自分の言葉の配慮のなさに、若干の申し訳なさを感じつつ、上目遣いに見つめていた私は、今日も露骨に目を逸らされたのだった。