*夜桜の約束?* ―再春―
「……先輩?」

「うん? ……やっと来たか」

 のそのそと振り返った顔はいつも通りのヘの字口だが、向けられた吊り目には普段の鋭さは見えなかった。

「あたしを……待ってたんですか?」

「まあな」

 遠慮がちに近付くモモにそっけない返事をして、凪徒は身体と顔をフェンスの向こうの桜へと戻した。

「でも……未だ満開ではないですよ、ね……」

 凪徒にならってフェンスにもたれ掛かったモモの眼には、丸められ抱えられた毛布が、彼の向こう側にチラと映り込んだ。

「んなこた分かってる。あと数日後だろ。そっちはちゃんと連れていってやる」

「はい……」

 ──あたしが此処に来るとは限らなかったのに、何でだろう? あたし……何か、お説教されるようなことでもして、待ち伏せされてたんだろうか……。

 いつになく張り詰めた雰囲気を感じたモモは、それ以上言葉を繋げなかった。


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