*夜桜の約束?* ―再春―
 =ひゅるる……=

 その時、坂の下から桜の花びらを巻き上げて、あの真白い絨毯(じゅうたん)を敷き詰めていた川面(かわも)の風が、頬のぬくもりを(さら)っていった。

「……んっ──くしゅん!」

 例え説教であろうとも並んで桜を見られるならと、相当我慢をしてみたのだが、ついにはクシャミが飛び出してしまう。

 モモは自身にガッカリしながら、恐る恐る隣の凪徒を見上げた。

 きっと「もう行くぞ。こんなんで風邪引かれたら俺が困る」──そう言われながら髪を掻き乱され、帰らざるを得なくなるのだろうと我が身を憂いた。

 案の定(きびす)を返し、右目の視界から去りゆく凪徒。

 モモは次に来るであろう想像した台詞(セリフ)を待ちながら、気付かれないように静かな溜息を一つついた。

 ──が、

「モモ。……こっち来い」

「え?」

 掛けられた後ろからの声に、勢い良く半回転する。

 背後にぽつんと置かれていた二人用のベンチに、肩から毛布を掛けた凪徒が座っていた。

「は、はい」

 今までにないシチュエーションに、(かす)かに戸惑いを感じながらも、モモはいそいそと近付いた。

 どうしてなのかベンチの真ん中が陣取られている為、その端の(わず)かなスペースにちょこんと腰を降ろしたが、大股に開かれた長い脚が邪魔をして、まるで人間椅子のようになってしまう。


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