元カレと再共演することになりました

下田くんの存在

私はその場に立ち止まることしかできなかった。

彼女に彼をとられたことを、まだ認めたくなかったのかもしれない。

彼女の登場は私を苦しめた。

私はスタジオ付近の椅子から動くことができない。

スタジオ中央に目をやると、桜さんと涙の姿があった。

次のシーンが始まるようだった。

だけど、私はこのまま2人のシーンを見続けることができない気がする。

気持ちの切り替えもできないなんて、女優失格だ。

2人の姿を見ていると、自然と目からは涙が出ていた。

「リサさん!次のここに置いときますね。」

そこに下田くんがやってきた。

下田くんが私のテーブルの上に台本を置いた。

私は下田くんの存在に気づいていなかった。

私は目を拭いながら、トイレへと向かった。

「リサさん!待ってください!」

彼が私の顔を見て追いかけてくる。

私の涙は拭いても拭いても拭いきることができなかった。

それぐらいとても辛い出来事だったのだ。

「リサさん!どうしたんですか?」

彼が追いかけてくる。

「下田くん。お願いだから、ついてこないで、1人にして。」

私は後ろを振り向きながら、彼にそう言った。

「りささん。泣いてるじゃないですか。どうしたんですか?」

「だから、ほっといてって。」

「ほっとけるわけないじゃないですか。」

彼が私の背中に両手を置いた。そして私たちは対面した。

「どうしたんですか?」

「なんでもない。」

「リサさんの大丈夫は、大丈夫じゃないって鬼頭さんが言ってました。」

私はその言葉にふと笑う

。彼は仕事熱心だ。私のマネージャーとして完璧を尽くそうと新卒1年目の期待の若手だ。

「笑わないでくださいよ。僕真剣なんですから。」

あどけなく笑う彼が5年前の涙の姿と重なって見えた。

彼のおかげで少しばかり元気が出てきた。

彼の携帯が鳴る。

「リサさん。次の新のシーン、始まるみたいですよ。行きましょう。」

「うん!」

私たちはスタジオへと戻る。

< 11 / 23 >

この作品をシェア

pagetop