僕と彼女と傷痕
光弥が、笑った。

そしてゆっくり風吹に近づき「ふぶちゃん、ちょっとごめんね」と言うと、補聴器を優しく取った。

「え………」
風吹がびっくりして、光弥を見上げる。

光弥は一度風吹に微笑み、鋭い視線で玄匠を見た。

「━━━━━」
「━━━━━」

「━━━━━」
「━━━━━」

玄匠と光弥が、何か険しい表情で話している。
補聴器を取られた為、何を言ってるのか全くわからない。
必死に口の動きを追う、風吹。

しかし、ゆっくり大きく口を開けて言われてもわからない時があるのに(その人の表情や雰囲気でなんとなく察する)こんな普通の会話が口の動きでわかるわけがない。

風吹は、諦めて二人をジッと見上げた。


話が終わったのか、光弥が風吹の手の平に補聴器を置いた。
そして手を合わせ、謝罪のポーズをして頭をポンポンと撫で去って行った。

慌てて補聴器をつけた風吹は、玄匠を見上げ詰め寄るように言う。
「みっちゃんが、なんか酷いこと言わなかった!?」

「…………みっちゃんって、呼んでるんだ…」
冷たい声で呟く、玄匠。

「え……」

「そうだよね…幼馴染みなら、そうなるよね」

「玄匠くん?」

「二人は、婚約者同士なの?
そんな人がいるなんて、僕知らなかったな……」

「え?それは小さい時の話だし、今はそんなの関係な━━━━━━」
「まぁ、関係ないけどね!
風吹は、僕の彼女だし!」

「……………みっちゃんと、何の話をしたの?」

「………」


『お前、ふぶちゃんの事を“どの程度”好きなの?』
『は?どうしようもなく好きですよ。
将来、お嫁さんにしたいくらい。
てか!お嫁さんにする約束してます』

『そう。
でも、ふぶちゃんの親は許してくんないよ?』
『は?』

『ふぶちゃんの親って特殊でさ!
君みたいな、ハイスペックな人間嫌いなんだ。
嫌な思い出があるらしくてね。
駆け落ちでもするってならあれだけど……
君は、ふぶちゃんと、結婚できない。
ちなみにふぶちゃんの親は、俺と結婚してほしいと思ってるんだよ』


「ううん。大した話じゃないよ!
ほら、帰ろ?」
玄匠が手を差し出すと、風吹が握った。
指を絡めて繋ぎ、ゆっくり歩きだした。

「………」
「………」

玄匠はただ、黙って風吹の手を引く。
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