神さま…幸せになりたい

仲直り

「川原さん見つかってよかったですね」
「主任、ご迷惑おかけしました」
「私どもも、ちゃんと管理ができてなくて…ね?河合さん」

「…っみんな川原さんに甘すぎです。いい大人で看護師なんですよ?そんな子供じゃないのに病院の外に逃げて、構ってちゃんなんですか?そんなんだから…亘先生も泉先生の方がいいと…」

「きみに…きみに詩織の何がわかる?わからないだろう。病院で目が覚めたら家族が亡くなって自分だけが生き残った。頼ってた人に裏切られ、俺にも嘘をつかれたら?もう何もかも信じられないと思う気持ちに誰でもなると思う。俺が嘘つかなければ良かったのに…泉先生とは何もない。これ以上、詩織に余計なことは言わないでくれないか?」
「でも…っみんな言ってます。亘先生と泉先生はお似合いだって」
「その噂…やめてくれない?私、結婚したい人がいるの。もちろん亘先生じゃないわ」
「嘘!」
「こんな時に嘘ついてどうするの?」
「じゃあ、あの会話は?」 
「亘先生の先輩で有名なヘッドスパをしてる人がいるの予約が取れなくて無理にお願いしていただけなのよ。勘違いさせたのは私のせいでもあるの」
「じゃあ川原さんは…」
「嘘だと勘違いだと言ったが信じていない。精神的に落ち込んで生きていたくないとまで言い出した。俺も見に来ますが1人にならないようにしていただけませんか?」
「わかりました。こちらでも目を配るようにいたします。河合さんもへんな噂を流したりしないで頂戴。人が傷ついたりするのを喜ぶような人は、この病院にいりませんから」
「…っすみませんでした」

「詩織、また来るから」

私が寝ている間に、そんな話をしてるとは思っていなかった。
目が覚めるともう外は真っ暗だった。左手が温かく感じて視線を落とすと、亘くんが手を握って眠っていた。「亘くん…なんで…」きっと疲れてるはずなのに…私のことなんてほっといてほしいのに…手を離そうとすると「詩織…起きたか?」目が合いそうになって視線をそらした。
「詩織…言い訳に聞こえるかもしれないけど俺の話を聞いてくれないか?」何を言われるのか怖くて首を横に降った。亘くんは頭を撫でながら
「詩織ごめんな。嘘ついて傷つけた。もう二度と嘘はつかないと約束するから。少しでいいから…」

そう頼まれても心に空いた穴は塞がりそうもなくて、私は身体ごと右側に向いた。涙が頬を伝う。亘くんを信用してた。信頼もしてた。でも、嘘を付かれてた…どうして…でも理由も聞きたくない。出口のない迷路を彷徨ってる感じがした。

亘くんが布団越しに抱きしめて「詩織…そうだよな。俺のこと信用できなくなっちゃたよな。ごめんな。本当にごめん…でも詩織に嫌われたくない」
「じゃあ…なんで…嘘ついたの?」思わず声に出してしまった。
 
「泉先生にヘッドスパを紹介してほしいと言われてて…」
「春くんのところ?」
「そう。行きたいとねだられた。でもあそこは…」
「なにかあるの?」
「詩織を紹介しただろ?だから他の誰にも紹介したくなかったんだ」
「なんで?春くん上手だよ。TVにも出るくらいだもの」
「俺からの紹介は詩織だけって先輩にも言ってたんだ。俺が一番好きな人にだけ先輩に髪、触らせるって…それなのに泉先生が来たらおかしいだろ?それに泉先生と先輩のところに2人で行くのも…なんか嫌だったんだよ。詩織がオペ頑張ってたのに…だから…嘘をついてしまった。本当にごめん」
「私も行きたかったなぁー」
「退院したら行こう。先輩も詩織が来るなら時間外でもいいから待ってるって言ってたから」
「でも私…やっぱり行けない」
「なんで?」
「髪…」
「髪?」
「剃っちゃったから…」
「あぁ…でも大丈夫だよ。すぐまた生えてくるから」
「でも…恥ずかしい」
「先輩はプロだから大丈夫。一緒に行こう?」
「連れてってくれるの?」
「あぁ…これから先、連れて行くのは詩織だけ。詩織だけだから。本当にごめんな」そう言っておでこにキスをしてくれた。
「詩織、仲直りの指切りしようか?昔よくやっただろ?」
「うん…本当にいいの?」
「何が?」
「指切りしたら嘘言えなくなっちゃうよ」
「あんなに悲しませた詩織をみたら、もうダメだよ…もう二度と泣かせたくない。辛い思いなんかしないで詩織には、いつでも笑ってほしいからさ」
「いいよ」小指と小指を絡ませた。
「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます指切った」
「そんなんでいいのか?他にお願い」
「どうせ飲めないもんね」
そう言って二人で笑った。
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