神さま…幸せになりたい

亘くんがいない

いつの間にか朝になっていた。
亘くんはもういなかった。

「川原さん、おはようございます。体調どうですか?」
「はい。大丈夫です」
「本日担当します宮澤です。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「手術ですが13時からになります。11時までは水分は取って大丈夫です。これから採血、レントゲン等の検査の後、点滴しますね。とりあえず採血します。腕、出してもらえますか?」
「アルコールは大丈夫ですか?取りますね」

私はその後、検査して点滴をしてもらい病室でうとうとしてたら人の声で目が覚めた。

「ねぇー川原さん入院したって?」
「そうなの、硬膜下血腫だって。事故の後遺症みたいよ」
「執刀医は亘先生が?」
「そうなの、わざわざ亘先生がするオペじゃないのにね?」
「だよね~どれだけ亘先生にお世話になってるんだろ。お荷物だね。ちょっと意地悪したくなっちゃうよ」
「ほんと…あはは…」

あー私、亘くんのお荷物なんだ…そうか…そうだよね。なんで私だけ生きてるんだろう…なんで神さまは意地悪ばっかりするんだろう。
一人で考えてたら11時を過ぎていた。もう少し水、飲めばよかった…少し頭が痛くて、そのままベットに横になった。

そういえば朝から亘くんに会ってないどうしたんだろう?本当ならそろそろ来てもいいのに…言いようもない不安が襲ってきた。私…本当に大丈夫なのかな?簡単な手術って言ってたけど…何かあったらどうしよう…でも…どうせ一人ぼっちだし…だけど…亘くんが一緒にいてくれるって言ってたよね?信じていいのかな?こんな私でもホントにいいのかな?そんなことを考えていたら…

「失礼します」そう言って入ってきたのは…亘くんじゃなかった。
「研修医の橘です。亘先生ですが、朝から緊急のオペに入ってまして、本当なら川原さんの執刀するはずだったんですが急患に来た方が重症で…急遽オペになりました。川原さんの担当は僕になりました。よろしくお願いします。オペの経験はありますのでお任せください」
「っえ…じゃあ亘く…亘先生は来られないんですか?」
「はい。手術も何時に終わるか…まだ目処がたっていません」
「わかりました」
「では、後ほどよろしくお願いします」

そう言って橘先生は帰っていった。亘くんじゃないんだ…亘くん来ないんだ…なんだか身体の力が抜けていくのを感じた。お願い一人にしないで…亘くん早く来て…ベッドに横になりたくなくて起き上がりベッドから降りようとしてふらついてしまった。その拍子にTV台におでこをぶつけてしまった。
「痛ーい」そのまま蹲った。

「川原さん?大丈夫?どうしたの?」
「あの…おでこをぶつけてしまって…」
「川原さん?他には?」
「頭も少し痛くて…」
「川原さん、出血してるから。これで押さえててね」と言ってガーゼを渡してくれた。
「今先生呼んで来るので横になって待っててね」

「川原さん大丈夫ですか?」
橘先生が来てくれた。
「他に何か症状は?」
「特には…」
「一応念のためCT取ってからオペ行きましょう。おでこは出血も酷くないから大丈夫。車椅子は乗れそう?」
「大丈夫です」

CTを取ったが異常はみられず、そのままオペになった。

局所麻酔だった為、怖くて怖くて仕方がなかった。先生はおでこも処置してくれてガーゼを貼ってくれた。

病室に戻ってきてからは何もすることもなかった。亘くんは夕方になっても来てくれなかった。きっと手術が終わらないのかな?私より重症な患者さんがたくさんいるもの。でも…淋しい…

「川原さん、夜担当の大野です。よろしくお願いします。体調はどうですか?もし変わった事があったら教えてくださいね。」
「わかりました」
「あっそうそう、亘先生、泉先生と出かけたみたいだから今日はもう病院に来ないと思いますよ。亘先生も亘先生の人生があるものね。まぁ川原さんの担当医、亘先生じゃないから関係なかったわね。失礼しました」
「っえ?」
そのまま大野さんは部屋を出ていった。

来てくれるって言ったのに…なんで来てくれないの?どうして?淋しい…一緒にいるって…なのに…なのに…私よりも泉先生の方が大事だったんだ。そうだよね。私…亘くんのお荷物だもん。お姉ちゃんの事がなかったら亘くんのお世話になってなかったし…結局、亘くんも口だけだったんだ…やっぱり一人になっちゃうんだ…涙がいくつもいくつも溢れて枕にシミを作っていった…

やっぱり神さまは私限定で意地悪みたいです。
< 9 / 51 >

この作品をシェア

pagetop