一人三脚(いちにんさんきゃく)/SF&ホラーショートショート選②

分裂するココロ

分裂するココロ




特殊詐欺の受け子役で逮捕されたムツオは、警察に連行される間、報道機関のフラッシュがたかれる中、一種のエクスタシーの域へ達していた

犯罪とはいえ、世間からの注目を一身に浴びるという感覚は初めての経験だったからだ

ここで彼の意識は分裂する

自分の中に閉じこもろうとする自分と、そこにいたんじゃダメになるよと警告する自分…

押田ムツオのこれまでの人生は、その二つの潜在意識との二股二人三脚だったと言えまいか…

だが、実態としてのムツオは二つの意識によって股裂き状態に陥った

それは文字通りとなって…

かくして、この空間が鉄格子の中だと知るに至り、ムツオの精神も裂けた

”ぎゃあ~~!!!”

この世とも思えない絶叫は、鉄格子の個室が連なる暗い空間をつんざく様にとどろいた

***

”コツッ‼コツッ‼コツッ‼…”

間髪入れず、建物の奥から慌ただしい靴音をたてながら、看守がムツオの収監されている119号房へと駆け付けた

”おい‼押田、どうした⁉大丈夫か…”

看守は119号のカギを手に取りながら、房の中を覗き込んだのだが…

”わーー!!誰か…、誰か来てくれー!!!”

それは、ムツオの発した先ほどの絶叫を凌ぐ音量で、看守の大絶叫はまさに阿鼻叫喚、すでに大柄なその看守は腰を抜かして尻もちをつき、フリーズ状態となっていた

そして、その目線の先のなんともおぞましい光景に、全身をぶるぶると震わせるのだった…





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