ボンドツリー
二つ目のプロローグ
私はママと一緒に歌の練習をしていた。

あの時までは。

水がすべてを流していく。

時間は私からママとの記憶を奪い去っていく。

ママはいつも言っていた。

一日一曲、丁寧に、心を込めて歌いなさい、と。

私はいろいろな曲を好きに歌いたかったけれど、今ではママの言いたかったことが理解できる。

曲に魂を込める意味がようやく分かった。

そうしないと音楽は私に心を開いてくれない。

そうしないときれいな音色は私から距離をとる。

ごめんね、ママ。

ママの言いたいことを理解できなくて。

私の歌声を聞いてほしい。

涙がせせりあがってきた。

すんでのところで涙をこらえる。

泣いてはダメだ。

ママが悲しむ。

私は毎日このモニュメントのもとで歌う。

いつか、大勢の人が私の歌声を聞いて幸せになってくれればいい。

かつてのママのように…私はなりたい。

空を見上げる。

今日は曇りだ。

空も、私と同じように涙をこらえているのかもしれない。
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