ボンドツリー
再演
「オリビア!」

オリヴァーは力の限り叫んだ。

そこには彼女がいる。

オリビアはゆっくりと振り向いた。

そしてにっこりと笑ってオリヴァーに抱き着いてきた。

二人の目に涙が浮かぶ。

雨がやみ、風はその動きを止めた。

「オリヴァー、良かった。やっと会えたね」

久しぶりにオリビアの声を聞いてオリヴァーは感動する。

「うん、やっと会えた。さみしかったよ」

二人は少し離れお互いの顔を見た。両者とも前より大人びている。

「はいこれ、落としたらダメでしょ」

そう言ってオリビアはストローハットをオリヴァーに渡した。

所々破れている。オリヴァーはそれをかぶり、そして言った。

「それを言うならお互い様だろ。僕のプレゼントを落とすなんて」

オリヴァーの返しにオリビアが笑う。

ケープを受け取り肩から羽織る。

濡れていて冷たい。

「物は持ち主のもとに戻る、ってね」

オリビアが言った。

オリヴァーも優しく微笑む。

すると向こうでいろいろな声が聞こえた。

それは子どもの泣く声、大人の絶望に襲われた叫び、聞いていて苦しいものだった。

オリヴァーとオリビアは互いに顔を見合わせる。

そして同時にうなずいた。

二人に無駄なことなんていらない。

オリヴァーは背負っていたヴァイオリンを取り出し、絃の調整をする。

オリビアはのどを鳴らして声を軽く出す。

そして同時に美しい音色が響き渡った。

オリヴァーのヴァイオリンの音にオリビアの歌声がのり、あたりを優しく包み込む。

泣いていた子供も、絶叫していた大人も黙り込み二人に近づいてくる。

雲が晴れ、そこから太陽のスポットライトが二人を照らし出す。

力の限り二人は音色を奏でる。

ボンドツリーが音色に応えるように光り出し、大きくなっていく。

やがてボンドツリーは人々を包み込み、寒い冬の日に暖かな風を吹かせる。

濡れていた服や靴が乾き、破れていたストローハットやケープを修繕していく。

やがて二人が奏で終えたとき、目の前には素晴らしい世界が広がっていた。

洪水の面影はなくなっており、人々の目に光がともっている。

そして盛大な拍手が二人の耳に届く。

オリヴァーとオリビアは互いに顔を見合わせ、にっこりと笑った。

そんな二人のもとに一人の大人が近づく。

オリヴァーの父親だ。

その目はかつてのパパに戻っていた。

オリヴァーのパパは何も言わず、オリヴァーとオリビアを抱きしめた。

この世界には魔法、絆、愛すべてが存在していた…。
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