桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
 頭の中にハテナが飛び交う美桜達をよそに、メイソンはおもむろにリムジンのドアを開けた。

 「どうぞ。お乗りください」
 「ええ?こ、これに乗るの?ハリウッド女優じゃないのに?」
 「美桜ちゃんも絵梨も、さっきからぶつぶつ何言ってんの?早く乗りなって」
 
 そう言いながら慣れた様子でリムジンに乗り込もうとする仁を、メイソンがすっと手を添えて制する。

 「ノー。いけません、じんさま。Ladies firstです」
 「オー、ソーリーソーリー」
 
 オーバーなジェスチャーでおどけてみせる仁に二人は笑って、ようやくおそるおそる乗り込んだ。

 「ひゃあすごい。ねえ上見て、絵梨ちゃん。シャンデリアだよ!」
 「ほんとだ!煌びやかー」
 「二人とも何飲む?ジンジャーエールでいい?」

 最後に乗り込んだ仁が、慣れた手つきで黒いクーラーボックス(いや、もはや冷蔵庫?)からドリンクのボトルを出し、グラスに注ぐ。

 「ちょっと仁くん、そんな勝手に…」

 慌てる美桜を見て、メイソンがにっこり笑う。

 「いえ、どうぞご自由に。私がサーブしなくてはいけないのですが、運転しますので」
 「うんうん。こっちはくつろがせてもらうので、運転よろしく」
 
 仁が気取ったポーズで足を組みながらそう言うと、
 「かしこまりました。それでは出発いたします」
 
 後部ドアをゆっくりと閉めてから運転席に回り、メイソンは滑り出すように車を走らせ始めた。

 「うわー、動いたよ。」
 「すごいね!セレブな気分」

 と、絵梨と盛り上がったのはそこまでだった。
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