春の花咲く月夜には
花天月地
賀上くんの、彼女になって約一週間。

私は毎日、なんだかとてもそわそわしていた。

彼女になった、という嬉しさで浮足立つような気持ちもあるし、未だ夢見心地な感覚で、どうしてもそわそわしてしまう。


ーーー好きになった人がいて、その人も、自分を好きでいてくれる。


この満たされた恋の感覚は、やっぱりとても特別だ。





「ありがとうございました~。またお待ちしていまーす」

元気な店員さんの声に見送られ、私と賀上くんはファミレスのドアを開けて外に出た。

店に入った時よりも、外は少しだけ涼しくなっている。

穏やかに吹く風が、とても心地いいと思った。

「・・・どうもありがとう。ハンバーグもデザートもおいしかったし・・・、ごちそうさまでした」

店の出入り口にある階段をゆっくり降りながら、私は賀上くんにお礼を言った。

賀上くんは、「どういたしまして」と嬉しそうに言った後、少し悩むように額を掻いた。

「けど、付き合って初めてのデートでファミレスとか・・・、ほんとによかったんですか」

「うん。久しぶりにここのハンバーグが食べたかったし・・・、なにより、もうすぐメロンフェアが終わっちゃうなって思ってて」

「ああ・・・、そっか。すげぇおいしそうに食べてましたもんね」

「うん。終わる前に食べれて満足です」

金曜の夜。仕事帰り。

今日は、彼と付き合い始めて明日で一週間となる、初めてのデートで夜ごはん。

賀上くんに、「何が食べたいですか」とリクエストを聞かれた時に、私は、ここのファミレスがいいとすぐに答えた。

初デートということもあり、彼は、張り切ってごちそうしようと思ってくれていたようなのだけど、私が「ファミレス」と答えたことで、気を遣っているんじゃないか・・・と心配していたようだった。

けれど、私の食べっぷりを思い出し、本心からのリクエストだとちゃんとわかってくれたよう。


(本当に食べたかったしおいしかったし・・・、行きたいって言ってよかった)
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