春の花咲く月夜には
相変わらず、私は気持ちを伝えることが下手らしい。

今の言葉で、ちゃんと言いたいことは伝わったかな。

ドキドキと不安を感じていると、賀上くんは、ふっと笑った。

「・・・大丈夫です。わかってるつもりではいるんですけど・・・、すいません、困らせて」

「う、ううん。私も上手く言えなくて・・・」

そのまま少しうつむくと、賀上くんは、私の髪に優しく触れた。

ドキッとなって目線を上げると、彼は私にキスをした。

ーーーほんの一瞬だけの軽いキス。

けれどその一瞬で、お互いに伝えきれなかった感情が、自然と溶け合っていくようだった。

「じゃあ・・・、頑張って練習しとくんで。ライブ、楽しみにしててください」

「・・・うん」

唇に残った感触に、私は頬を火照らせたまま。

「じゃあ」と言って歩き出し、改札口の外に出た。

振り返ると、彼は優しく微笑んで、私に向かって右手をあげた。


(・・・・・・)


ーーーもしかしたら、私はさっき、強がっていたかもしれない。

「寂しくない」、「大丈夫」って、彼に向かって言ったこと。

あの時は、嘘をついたつもりもなかったし、自分の気持ちを誤魔化したつもりもなかったけれど。

今、こうして彼と離れて、私はもう・・・寂しい気持ちになっている。


(あと2週間は、こうしてゆっくり会えないんだな・・・)


たった2週間だとも思うけど。

考えると、やっぱりとても寂しくて。

本当は・・・、ほんの少しの時間でいいから、この間に会いたいっていうのがきっと私の本心だ。

彼女になれて、それだけで幸せだって思っていたけれど。

もっと一緒にいたくって、もっとそばにいたいと思う。

まだ、付き合い始めたばかりだけれど、私の心は、早くも欲張りになっているようだった。









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