きみと3秒見つめ合えたなら

〜恭介side〜伝わらない想い

 相川先輩には、すっかりネタだと思われている。

 体育祭が終わっても、あの調子で行くと、逆に嫌われないか?

 あの勢いで、あのガードが硬い先輩を落とす...のは、無理な気がした。

 押してダメなら引いてみろ...

 ここは、引いてみるか、と気持ちを切り替えた。


 しかし、驚くべき事がおきた。

 聖斗くんが疲労骨折している島田先輩の状態が良くなるまで、とりあえず地区大会までの期間限定で、陸上部入るというのだ。

 体育祭のあの走りはオレも嫉妬するくらいスゴかった。

 でも、他にも部員がいるのに呼ぶなんて。よりによって、聖斗くん。

「聖斗くん、よろしく。」
オレは、聖斗くんに駆け寄った。

「おぉ、恭介。いろいろ教えてくれよー、先輩?」
マサトくんが、おどけてみせる。

 何でこのタイミングで現れるかなぁ。

 ライバル参上。

 やっぱり引いてたらダメなんじゃないか?


 聖斗くんはサッカー部の練習が落ち着いた頃、バトン練習をするために陸上部にやってくる。

 そしていつも相川先輩に話しかけている。

 相川先輩も、だんだん聖斗くんに気を許している様で、オレを含め他の男子には見せないリラックスした雰囲気を出している。

 悔しいことに、聖斗くんと話す相川先輩の笑顔が、とてもかわいい。

 やっぱり押すか?

 茉莉と相川先輩が楽しそうに話をしているのを見つけた。

「絢音先輩はやめてよね。」なんて言っていた割には、相川先輩と仲がいいじゃないか。

 先輩ひとりだと声はかけづらいが、茉莉がいるなら...

「茉莉、何楽しそうに相川先輩と話してるんだよ〜。」
茉莉がこっちを振り返る。

「あ、恭介?絢音先輩ね、早瀬...」

 何か言いかけた茉莉を遮るように

「茉莉ちゃん!な、何でもないよね?」
と相川先輩が言った。 

 聖斗くんがどうしたんだよ。気になる。

「相川先輩がどうしたの?先輩推しのオレとしては気になるんですけど。」

 今日の茉莉はご機嫌でいつも異常によくしゃべる。

「ダメだよ、恭介ー。いつまでも絢音先輩推してたって、絢音先輩には好きな人いるんだからー。」

「え?」

 周りが静寂に包まれる。

 3人の間に微妙な空気がながれる。

 なんだ?この空気。何か話さないと...

「それでも、オレ、相川先輩推しなんで。」

 明るく言って去るつもりが、思いがけず低い声になってしまった。

 マジに聞こえるじゃん。
 いや、マジなんだけど。

 でもなんとなく、
今はそんなタイミングじゃないし。

「なにそれ。」
茉莉の声が微かに聞こえた。

 振り返ると2人とも練習にもどっていた。
 っていうか、茉莉、聖斗くんの名前、言いかけてたよな。ってことは、相川先輩の好きな人って、聖斗くんなんだろうか。
 
 あぁ、聞くんじゃなかった...
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