きみと3秒見つめ合えたなら
 私は桐谷くんに見つからないように...なんて、変な意識をして、こっそり帰っている。

 何をやってるんだろう、私。

 なのにある日、
「相川先輩!やっと見つけた!」
しまった。桐谷くんだ。

「な、なに?」

「今日も佐山先輩いないんですよね?
喧嘩でもしたんっすか?」
桐谷くんが心配そうに聞いてきた。

 心配してくれていると思うと、素直に答えてしまった。

「大丈夫、喧嘩なんてしてないよ。景子、彼氏できたのかも。」

「そうなんですか?
で、先輩は一人で帰ってるんだ。」

 あまり、一人ばっかり言わないでよ。
悲しくなるじゃん。

「今日こそは、そこまで、一緒に帰っていいですか?」

「うん。」

 なぜか、何も考えず、返答してしまった。
 もしかしたら...
 少しの後悔が...
 次があればOKするつもりだった...のかもしれない。

「え?いいんですか?」
あまりにすんなりOKしたので、桐谷くんの方がびっくりしている。

 だけど、2人とも沈黙のまま、坂道を下っていた。

 なんで何も言わないの?
 気まずいんだけど...
 チラッと桐谷くんをみた。
 桐谷くんは、やや視線を落として自転車を押している。

 そして坂道を下りきって、分かれ道が現れた。
「じゃ、ここで。」
私は切り出した。

「あの、先輩?いや、何でもないです。
おつかれさまです。」

「おつかれさま。」

 長いような短いような不思議な時間だった。

 そして、思ったより、心地よかった。

 桐谷くんには、からかわれていると思っていたけど...
 隣で歩いた心地よさとのギャップに私は少し戸惑っていた。
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