聖なる夜に新しい恋を

「……これは?」

「新商品のネイルオイル。ティーン向けに、今あるブランドとは別で発売する予定なんだ」


 要領を得ない私にわかるように、児玉さんが解説をしてくれる。社長のデスクまで戻ると、6つの案が並べられていた。


「こういうのは女性に聞くのが一番だからね。それに、児玉くんはセンスが無いらしい。これが良いと言うんだ。どう思う?」


 指されたのは、カラフルな花が散りばめられた華やかなデザイン。美しいというより、かわいい感じだ。
 少し眺めてから、疑問に思ったことを児玉さんに聞いてみる。


「ハケで塗るんじゃなくて、ペン型なんですか?」

「そう。マニキュアタイプだと家でしか使わないかと思って、ペンタイプにする予定」

「ってことは、家でのケア以外の場面を想定しているんですか?」

「そりゃあ、ティーンだから学校とか」

「学校だったらネイルオイルよりハンドクリームやリップクリームの方が使いやすくないですか?」

「それはそうだけど、うちは後発だから……競合他社が多いからね」


 成る程、それなら持ち運びに便利なペンタイプの方が使いやすいだろう。だが児玉さんは、社長の言う通りセンスが無いのかもしれない。


「このデザインなら派手でかわいくて、クラスメイトとは指先から差をつけるオシャレな私!みたいな──」
「無しですね、これは。第一、ちょっと子供っぽくてダサめの花柄って感じがします」

「えっ!」


 児玉さんイチ押しのデザインをきっぱりと否定すると、児玉さんの表情が凍った。対照的に、社長は嬉しそうに私の話に耳を傾けていた。


「いいですか、学校はそもそも勉強をする場所で、おめかしして良い場所じゃないんです。だから“いかにこっそりかわいくなれるか”が大事なんです。大体、お洒落を堂々としても良い学校で爪まで気にするような子は、マニキュアタイプでも平気で持ち込んでます」

「そうか。髙山さんならどれが良いと思う?」

「私は……これですかね。シンプルで小さめのロゴが大人っぽいと感じました」


 社長から聞かれて、並べられたうちのひとつを指す。透明な軸に手書き風のロゴにゴールドで小さな花のモチーフが入ったそれは、ティーン向けの雑貨というより化粧品に近いデザインだ。


「使用シーンに学校を含むなら、これくらいシンプルだと授業中にもペンと騙してネイルケアが出来そうで良いと思います。ただそういったシーンで使うなら、中のオイルが直接見えるよりは、視認性も損なわない半透明の軸にしたほうが良いかと思いました」

「成る程。……よし児玉くん、このデザインでいこう。ペンらしさをもう少し感じるデザインで修正してまた見せてくれ」

「……かしこまりました」


 結局、私の推した案で決まってしまった。何だか納得しきれていないような児玉さんと、社長室をあとにした。

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