聖なる夜に新しい恋を
「児玉さん、さっきはありがとうございました」
「おう。髙山は俺イチ押しのデザイン、一蹴したのにな」
「あれは流石に子供っぽ過ぎますって。今どきの子たち、大人っぽい考えの子が多いですよ」
「はいはい」
戻りのエレベーター内で、先程のお礼をした。エレベーター内では重荷が降りたからか、少しだけ会話が弾む。児玉さんは別方向で決まったせいか、少々いじけ気味な気がするが。
「そういえば聞いた?巽の話」
「っ、和くんの、ですか?」
「ああ、大阪支店の新卒には盛大に振られたらしいぞ」
心臓がドクンと震えた。もう吹っ切れたはずなのに、いまだにその名前を聞くだけで心をかき乱される。やっぱり後輩のあの子だったかと思った反面、クリスマスを過ごしたいほどの脈ありかと踏んでいたのに振られたのかとおかしく思う。
「……そうですか」
「だから髙山、」
「はい」
「お前は良い女になって巽のこと見返してやれよ。振ったこと後悔させるくらいにな。あと元鞘考えて無いならさっさと男捕まえたほうが良いぞ。そうだな……あ、天照のあいつとか」
「なッ、余計なお世話です!」
「おー威勢いいじゃねえか。引きずってなさそうで安心だな。じゃあまたな」
商品企画のフロアに到着したあと、スマートに去っていく児玉さん。からかいにも取れるやり取りは、児玉さんなりの励ましなのだろう。エレベーターは無情にも私ひとりを乗せてまた動き出した。
「やっば、定時過ぎてるじゃん。早く片付けないと」
フロアに戻ると、もう人はまばらになっていた。他の曜日は不夜城でも、ノー残業デーは一定時刻になるとパソコンが強制的にシャットダウンされるため、帰るしかない。開いていたデータファイルを保存し、課長へアポイントの報告メッセージを端的に入れておく。
「はあー、やっと終わりだあー」
今日は散々な一日だった。昨日のことを受付嬢が広めたのだろう、朝から通りすがりにこそこそ噂話をされたり、定時間際に社長から呼び出されたりと災難ばかりだった。
やっとのことで一日が終わると、荷物をまとめて席を立つ。
(……そうだった。今日は、)
──彼との約束の日。バタバタしていたせいか、頭からすっぽり抜けていた。
今日一番の災難は、これからかもしれない。はあ、と溜息をついて会社をあとにした。
(何で緊張してるの……耳までドキドキしてる)
マスクの下に隠した口元はきゅっと結ばれていた。まるで、ときめく心臓が口から出てしまわないように。