聖なる夜に新しい恋を






 大粒の雨がばつばつと音を立てて傘を打つ。止むどころか勢いを増した雨は、路面にうっすらと流れを作るほどだった。
 路地の向こうは神楽坂。今日は華金、週末ということもあり、雨とはいえ人が行き交うのが見えた。その明かりに誘われるように、細い路地を進む。


「さむ……」


 タートルネックに手を掛け、少しでもと引き上げる。マフラーなんて外回りの邪魔だと、営業に異動してからは身軽になるように心掛けていた。

 と、次の瞬間、キュルルとパンプスが鳴いて。


「あっ!」


 足が支えるものを失い、世界が周る。体は雨が流れる路面へ叩きつけられ、ズザッと鈍い音とともに衝撃が走った。





 ──マンホールの上でパンプスのヒールを滑らせ転倒したとわかったのは、数秒後だった。


「…………ほんと、サイっアク」


 数歩先に転がった折り畳み傘は、柄を天に向けて雨を受け、代わりに自分が大粒の雨に打たれる。薄暗い中ざっと体を見る限り大きな怪我もなく、少しほっとした。



(とりあえず、どこかで雨宿りしていろいろ整えよう)


 起き上がってカバンを手に取り、傘を取ろうと立ち上がりかけた、その時。


「おねーさん大丈夫?」


 声の降ってきた先を見上げると、ビニール傘が差し出され、青年がこちらを覗き込んでいた。
 
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