聖なる夜に新しい恋を

「……ごめん、やり過ぎたかな。立てる?」

「うん……大丈夫」


 力が抜けた体は、自重を支えることすらままならない。ふわふわとした気持ちと同じように足元もふらつき、自然と彼に手を取られ歩き始める。どうしてこんなに身も心も揺れているのか。何てことはない、ただ抱きしめられただけだというのに。


「スーパー寄るから、他に食べたいもの買おう」

「え、知り合いのお店で食べるんじゃ……」

「まさか。俺んちだよ」

「ええっ!?!?」

「持ち帰り用に詰めてもらって、もう取ってきて家にあるから。時間無いなら包装したまま渡すって言ってたでしょ」

「あ……そっか」


 素っ頓狂な声を上げ、脱力から現実へ戻って来る。彼との電話でのやり取りを思い出し、合点した。彼の前ともなると、どうしてこうも不格好で、ポンコツで、阿呆になるのか。

 そうこうしているうちに目的地に到着し、スーパーの自動ドアをくぐる。かごを手に取ったものの、ひょいと掻っ攫われ手が自由になった。


「っ三田くん、」
「持つよ。さっきまでみたいにふらついて、落とされたりしても困るから、ね?」

「ちょっ!……じゃあ私が払うから」

「ん、おっけー。食べ物はチキンぐらいしか無いから、適当に入れてって」


 とは言われたものの、ふたりで食べられるサイズのサラダを手に取って入れたが、他にも何か食べようと思う程胃は大きく無い。残りは彼と売り場を見て回った。


「紗礼さん、ケーキ食べる?ホールは無いけど」

「うん。じゃあ……私これ、チーズケーキ」

「俺は普通のにしよっかな」

「三田くん、甘いの好きそうだもんね」


 だって、フタバでフラペッティを頼むくらいだもの。そんなやり取りをしながらショートケーキとチーズケーキをかごへ追加して、飲み物の売り場へ移動する。


「飲み物、お酒と水なら家にあるけど、どうする?」

「えっ?三田くん飲まないの?」

「俺は飲みたいけど紗礼さんが、だよ。男のひとり暮らしの部屋に上がるんだから、お互いシラフで居たいとかあったらジュースも買おっかなって」

「あっ」

「……もしかして、また気付いてなかった?」


 ──図星。また、だ。いつもいつも隙だらけなのに襲われていないのは、彼の誠実さが故のこと。私が変な発言をしても、こうやっていつも逃げ道を作ってくれている。その優しさを噛みしめるとともに、先程の自分の阿呆臭さに恥ずかしくなり赤面した。
 マスクを少しでも引き上げて顔の赤みを誤魔化しながら、大きなジンジャーエールを手に取りかごへ入れておく。

 他にもおつまみやお菓子、ロックアイスなどをいくつか入れて、レジへ向かった。

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