聖なる夜に新しい恋を
「お支払いは、」
「カードで。あと、レジ袋付けといてください」
「ッちょっと三田くん!支払いは私って」
「いーからいーから。俺が払いたくて払ったの。それよりほら、紗礼さん手空いてるんだから買ったの詰めといて」
「……」
お会計で先手を取られ、泣く泣く奢られる。レジ袋に全て詰め終える前に、彼がサッカー台へ戻ってきた。詰め終わった袋をまたもひょいと取り上げる。
「おっけー、行こっか」
「待って!私が荷物持つから!」
「ほーら、取れるもんなら」
「……もう、意地悪」
高々と頭上まで上げられたら、もうお手上げだ。結局支払いも手伝いもほぼほぼ出来ないまま、スーパーをあとにした。
「……ごめんね、こんなことしか出来なくて」
「へ?」
「高級なレストランとか、奢ってあげられたら良かったんだけど。今日はどこももう予約いっぱいでさ」
歩き始めて、ぽつぽつと彼が言葉を溢す。そりゃあ出会ったのが先週で、クリスマスまで一週間しか無かった訳で。そんなタイミングでは、こんな繁忙期に良い店はまず空いていないだろう。
もしかして、今日急な誘いだったのは、ギリギリまで出来ることを探していたから?──真実はわからない。でも、彼がそこまで考えてくれていることに嬉しく思い、心が暖かいもので満たされる。
「そんなことないよ。むしろありがとう、今日誘ってくれて。あの雨の夜、三田くんと会わなかったら今日はひとりで過ごすはずだっかたら」
そう。クリスマスはひとりで──独りで過ごす、はずだったのに。彼との出会いが、私を変え、今日を変え、人生を変えたのだ。
怒涛の一週間を振り返っていると、彼がまた口を開いた。
「そっか、喜んでもらえたなら良かった。俺、御曹司とか若社長とかじゃないから、こんな普通のことしか出来なくて。紗礼さんにつまらなくさせてるかもって思ってたからさ」
「時々は特別だと楽しそうだけど、結局最後は普通が一番だよ。普通に買い物して、普通に歩いて。そういう日常を楽しめるって良いと思わない?」
「どうして?」
「どうしてって、日常の中の小さな幸せを噛みしめるのって素敵だなあって思うから…………何だか、新婚さんみたいで」
「っ!」
返事が途切れてふと横を見れば、彼が数歩後ろで立ち止まっていた。戻って顔を見てみれば、マスクから上は何やら難しい顔をしていて。
「ど、どうしたの?」
「……紗礼さんってさ、ほんっと無自覚だよね……」
「えっ!ごめん、また変なこと言ってた!?」
「謝らなくて良いって。立ち止まってごめん、行こ」
そう言って、また彼が歩き出す。少しおろおろと彼を見るも、話し出す様子は無い。到着までの間、ふたりの間には珍しく沈黙が流れていた。
茜が消えた薄暗い空には、一番星が瞬いていた。