聖なる夜に新しい恋を
──ふわり、と口元に何かを感じた。
でもその感触は、人肌では無くて。離れていく彼の顔を見て、お互いまだ外していなかったマスクの存在を思い出した。不織布同士が触れ合ったのだと理解したのは、事の後だった。
「──こういうこと、俺とは無いって思ってるの?」
「っ──」
言葉が消えた時の中で、彼と見つめ合う。後頭部から彼の手が降りてきて、髪を短くしてからあらわになった首筋を撫でた。彼が触れたところにぞわりと甘い痺れが走り、小さく身震いする。そのまま耳元へ移動した大きな手は、ざわざわと脳へ直接訴えるようにうごめいた。そしてマスクの紐に手を掛け──。
「……ごめん、やり過ぎた」
「あっ……」
マスクを外すことなく彼の手が離れてゆく。少し名残惜しさを感じて、小さな声を発してしまった。まだ火照りが引かない私の体とは対照的に、彼は電子レンジを開け準備に戻っていく。
「飲み物、紗礼さんに任せるから。両方ジュースでも良いし。俺はチキンあっためとくね」
「っ、うん」
そう言われて、先程出てきた丸グラスとマグカップを前にした。ごろりとロックアイスを入れる指先はまだ火照りが残っていて、その温度差が現実へと連れ戻してくれる。ロックアイスの冷たさに、これ程感謝したことは無い。
「……よし!」
出来上がったのは、ジンジャーハイボールがふたつ。マドラーの無いこの家では、代わりの箸でかき混ぜて仕上げた。
ソフトドリンクでは無く、あえてアルコールドリンクを作った。──これは、決意表明だ。彼に応えるために作ったのだ。私のために準備してくれた彼のために。そして、想いを寄せてくれる彼のために。