いじっぱり姫の青葉色は。
無駄に絡まれたせいで、スーパーのタイムセールにギリギリ間に合うかどうかの時間になってしまった。今こそ俊足を発揮すべきときか……。
『あれこそ本物の大和撫子だよな』と影で言われている仮の姿を捨てるべきか否か、歩みを進めながら悩んでいると。
「逃がすわけねーだろ」
私の背中に、嫌な呟きが届いた。
引き留められてからこの瞬間まで。青葉薫らしくもない、感情を乗せっぱなしの声。
たった今届いたのは……所有欲を滲ませた歓喜と高揚。
嫌な予感が、する……。
「俺は仲間にお触れを出す」
「薫、まさか……」
「嘘でしょ?」
「やったー!」
幹部それぞれの声も私の背中を刺激し、そこをタラりと冷や汗が伝う。
逃がさないための、『守月』へのお触れ……それはつまり。
一つの可能性に行きついた私は、青葉薫の方へと振り返る。
にこりと笑みを浮かべた青葉薫は、それはそれは麗しく……妖しい雰囲気を纏っていて、音もなく私の目の前へ立った。
そして、髪を一房手に取り、動けない私に向かって口を開いた。
「“桂木撫子は『守月』の姫だ”ってな」