【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。

 ***

 それから、半年が経過した。
 メルシアは、相変わらずランティスの推し活に精を出して、楽しそうに過ごしている。
 公開訓練に現れる度に、ランティスがメルシアを見ている視線になんて、気がつきもしないで。

(なぜだ……。姉は、なぜ気がつかない)

 ジークの抱いた小さな疑惑は、もはや確信に近づきつつあった。
 あの視線……。それにメルシアが働いている治癒院に併設された孤児院。
 定期的にベルトルトが訪れているが、それだってランティスの指示だ。

(間違いない。フェイアード卿は、姉さんに思いを寄せている)

 いったい、いつの間にそんなことになったのか。それは、ジークのあずかり知らない事ではある。
 もともと、フェイアード侯爵とメルシアとジークの父メルセンヌ伯爵は、長年の友人だ。
 だから、ランティスとメルシアは、どこかで面識があってもおかしくない。

 ランティスは、メルセンヌ領が災害に見舞われた時に、騎士になり、しかもメルセンヌ領赴任を志願したという。

「……え? まさか、ずっと前から?」

 今日は、ランティスが騎士候補生の指導に訪れる日だ。
 だから、ジークは少しだけ、ランティスの出方を探ってみることにした。

 ほんの出来心ではあったし、あまりに二人の距離がお互いの気持ちの割に遠い気がしたから、ジークとしては少しだけ背中を押す程度の気持ちだった。

 ランティスの聴力が、常人のそれをはるかに上回るという情報を、すでにジークは入手している。

(それにしても、諜報員かと疑われないように気を付けないと、というレベルでフェイアード卿について詳しくなってしまった……)

 メルシアが、ランティスの話を聞くと、あまりに純粋に喜ぶから、ついジークはランティスについてのうわさ話や情報に敏感になってしまったようだ。

 少しだけ、ランティスと離れた位置。
 確実に聞こえるであろう、絶妙な位置で、友人に相談を持ち掛けるように、何気なく会話する。
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