【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。


(……今日は、お庭ではないのね)

 そのことを、少しだけ残念に思いつつ、家に入れたくないのではないのかと思っていたことが否定されて安心もしたメルシア。

 忙しいのだろうか、今日も、ランティスは足早だ。
 長期休暇を取ったのも、もしかしたら、用事があっただけなのかもしれない。
 侯爵家の長男としての役割もあるだろう。ランティスは、いつだって忙しい。

 メルシアとの月2回の婚約者としてのお茶会も、いつも30分を越えることがなかったのだから。
 そうだとすれば、押しかけてきて、やはり迷惑だったのではないかと、メルシアは思う。

「……それで、今日はマントを返しに来てくれたのかな?」

 ずっと、ランティスのマントを後生大事に抱えていたことに気がついたメルシアは、再び赤面する。
 名残惜しさをぬぐい切れないまま、ランティスに差し出したマント。

(あっ、しわになってしまった……)

 フェイアード侯爵家に案内されてから、ずっと無意識に抱きしめていたせいで、しわになってしまっている。
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