【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
そして、メルシアが瞬きをした刹那に、そこにいた狼の姿は消えて、美貌の騎士が現れる。
その騎士は、窓辺に肘をついて、少し気だるげにこちらを眺めた。
そして、メルシアと目線が合うと、口元を緩め軽く手を振る。
「――――ランティス様と目が合った! 私に手を振ってくれている!」
天国とは、ここにあったのだろうか。メルシアの頬は、薔薇色に染まり、瞳は潤み、微笑みが口元に浮かぶ。その姿は、完全に夢見る乙女だ。
先ほどまで、一緒にいたことも忘れ、すでに推し活を満喫しているメルシア。
けれど、直後にランティスの姿は、窓辺から消えてしまう。
「あれ……? まだ、そんな時間は経っていないはず?」
首をかしげるメルシアと、窓辺でしゃがみ込んでしまったランティス。
「――――あんな顔、離れている時に見せるなんて、反則だろう」
「ランティス様~?」
可愛らしい声でメルシアがランティスを呼んでいる。
「今すぐ駆け寄って、抱きしめたいのに。……何の拷問だ?」
この距離では、ランティスが狼姿に変わってしまうことはないらしい。
30分後、その事実は判明した。
しかし、もどかしいほど、じりじりと距離を詰めつつ、二人の実験はその後も続けられるのだった。