【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。

月夜の狼



 ***

 赤い髪をした騎士が振り返る。甘いマスク、その瞳は海よりも青い。
 振り返った先には、高い位置で結んだ黒髪、少しだけ人を不安にさせるような紫の瞳、騎士服の上に黒いローブをまとった女性が立っていた。

 妖艶な微笑みとその紫の神秘的ともいえる瞳のせいで、近寄りがたい印象を受ける。

「アイリス殿。……久しぶりですね。その節はお世話になりました」
「うん、シグナー卿、お久しぶりぃ。体の調子はどう? まだ、完全に復活は出来ないでしょ?」
「ご期待に沿えずというか……。完全に復活しています」
「おぉ? おかしいな。あの傷と出血。私がいくら治癒魔法をすぐにかけたって、騎士生命は危ういはずなのに。…………どうして? どうしてだと思う?」

 小首をかしげた彼女は、口を開いた瞬間、見た目の印象より軽薄さをひとに与える。
 それすらも、計算されているのではないかと、思えなくもない。

 赤い髪の騎士、ベルトルト・シグナーは少しだけ、目の前の女性が苦手だ。
 己の求める魔道の探求に忠実な、上級魔道士アイリス。
 だが、先日の事件でメルシアをかばって倒れたベルトルトが、今も命をつないでいるのは、アイリスの治癒魔法のおかげ、それも事実だ。

 それに加えて、ベルトルトの妹の恩人でもある。

「……はぁ。何が言いたいのですか?」
「うんうん。例の治癒魔法使った子。フェイアード卿の婚約者だって?」
「――――どこで、その情報を?」
「フェイアード卿は、よっぽど彼女のこと守りたいんだね? でもさ、人の口に戸は立てられぬってね。あの子、前々から狙われているんじゃないかな? フェイアード卿の婚約者という理由以外で」

 ベルトルトはお人好しではあるが、人を見る目はある。
 そして、目の前の上級魔道士アイリスは、苦手ではあるが、人をだましたり陥れるような人間ではないことも理解している。

 それに、先日の事件。もしかして、光魔法を集めると見せかけて、本当に狙われていたのは……。
 加えて、孤児院の子どもを狙った人攫いは、並の腕ではなかった。
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