国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
「アリハンスまでは、馬車で十日かかりますね。向こうの滞在期間を考えると、一月程会えなくなる、ということになりますね」
 歪んだ表情のままそのように淡々と言葉を口にするクリスが、フローラにとっては少し恐ろしいとも思えた。
「いえ、クリス様。今回はアリーバ山脈を越えるルートでアリハンスへと向かいます。ですから、もう少し早めに戻ってくることはできるかと思うのですが」
 アリーバ山脈を越える、とフローラが口にしたときに、再びクリスの顔が歪んだ、ように見えた。
「あのアリーバ山脈を越えるのですか?」
 クリスがじろりとフローラを見下ろす。はい、と頷いてフローラは彼を見上げる。
「あの王女が一緒なのですよね?」
「はい」
「誰がそのような愚行を提案したのでしょうか」
「やはり、クリス様もそう思われますよね」
 ため息とともに、フローラはその言葉を吐き出した。ジェシカが危険を冒してまで隣国にまで足を運ばねばならない理由を、クリスにはきちんと説明しなければならないだろう。フローラは首を大きく振ってあたりを見回した。
「どうかしましたか」
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