国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 フローラのその動きを目にしたクリスは鋭く声をかける。少し怒っているようにも聞こえるその声色。
「あ、いえ。どこか座ってお話できるところがないか、と思いまして」
 何もない裏庭には何もない。まして座って優雅にお茶を飲めるような場所など。
「つまり、あなたの話は長くなる、ということですね」
「え、と。まあ……、そうですね」
 ふむ、とクリスは右手で顎をさすった。結局、魔法の練習と言うのは彼女をこの屋敷に正々堂々と呼びつけるための口実のようなものだ。四属性を使いこなせるようになった彼女に教えることなど、もう、とっくに無くなっていた。今は、新しい術式の考案方法を教えたり、彼女が考案した術式を見せてもらったり、そういうことをしている。だから、必ずしもこの時間が重要かと問われるとそうでもない、というのが正解。
「では、中に戻りましょう」
「え、と。クリス様。その、今日の分の魔法の指導については?」
「ありません。ちょうどいい。あなたの魔法についても私から伝えたいことがあったのです。今日は、その時間に当てましょう」
 さあ、とクリスが右手を差し出してきた。これは、この手をとりなさい、という彼からの無言の指示。初めの頃は慣れなかったことだけれど、クリスと四か月も一緒にいれば彼という人となりがわかってくる。
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