国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 誰かに必要とされたくて。
 サミュエルに必要とされたくて、彼と付き合っていた。彼に何かを言われても、その通りにしていたのはサミュエルからいらない人間と思われるのが嫌だったから。
 ジェシカの護衛を全うしたいと思っているのも、彼女に必要とされたくて。
 そうだ。自分はずっと誰かに必要とされていたかったのだ――。
「……ラ、フローラ、フローラ」
 自分を呼ぶその声にはっと目を開ける。目の前には、愛おしい彼の顔が。
「あ、え、えと。クリス、さま?」
「体は辛くないですか?」
 今にも泣き出しそうなくらいな笑みを浮かべて、クリスはそう尋ねていた。少しフローラは気を失っていたらしい。
 彼の顔を見たら彼女もなぜか泣きたくなって、だけどそれをクリスに気付かれないようにと、その彼の胸元に顔を埋めた。
「大丈夫、です」
 何か、夢をみていたような気がした。とても悲しくて、切なくて。だけど、彼がここにいるからか、自分をこうやって愛して必要としてくれる彼がいてくれるからか。
 そんな気持ちもどこかへ消えてしまったようだ。
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