国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 フローラは顔を背けたが、その背けた先でサミュエルに唇を奪われた。いつもの彼なら、その触れるだけの口づけで終わり。
 だが、今日はそのいつもと違う。フローラの唇のつなぎ目を狙って、こじ開けようとしてくる。フローラは驚いて目を見開き、それを阻止しようと顔をしきりに背けようとするのだが、サミュエルが両手で彼女の頬をしっかりと押さえているため、それも叶わない。
 歯を食いしばって、フローラは冷静に考えてみる。サミュエルの両手がその頬を包んでいるということは、肩を押さえつけている拘束はとけた、ということで。
 フローラは両手でサミュエルの肩を掴んだ。自分の身体から引き離そうと、力いっぱい彼の肩を押す。
 サミュエルも何をされたのか、わからなかったのだろう。瞬間的に怯み、その唇を解放してしまう。だが、すかさず彼はフローラのその両手の自由を奪った。
「なあ、フローラ。なんで俺を拒むんだよ? 俺たち、うまくいってたよな?」
 サミュエルの言葉にぶんぶんと首を横に振るフローラ。
「サミュエル、私たち、もう終わったよね? 別れたよね? それに私、他の人と付き合ってるっても言ったよね?」
「お前の相手って、あの魔導士だろ。お前とあいつじゃ、釣り合わない。俺にしとけよ」
 サミュエルがギシリと膝を寝台の上にのせた。
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