国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
「フローラ、歩けますか?」
「あ。はい」
 フローラはクリスのローブを胸の前でしっかりと合わせると、立ち上がった。濡れそぼった衣類は、いろいろと周囲からの目が気になってしまう。
「クリス殿。フローラを頼む。私は少し、この冷牢を確認してから戻ろう」
 それがブレナンなりの気の遣い方なのだろう。
 フローラが歩くたびに、ポタッポタッと水滴が落ちる。クリスはフローラを自身の研究室へと連れていくことにした。むしろ、そこにしか彼女を連れていくことのできるような場所は無い。
「クリス」
 彼から渡されたタオルを受け取りながら、フローラは彼の名を呼んだ。そのタオルで顔を覆うと、なぜか次から次へと涙が溢れてくるのが不思議だった。伝えたいこと、言いたいことはたくさんあるのに、その涙に邪魔をされてしまう。
「ごめんなさい」
 フローラはその言葉を絞り出すことしかできなかった。何に対する謝罪なのか、フローラ本人も気付いてはいない。
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