国をあげて行う政策によって付き合いを始めた二人のお話。
 根が素直で真面目な彼女。言われたことはきっちり守る彼女。そこも見事、真似をしてしまった。
 そんな真似っ子が原因で、あれよあれよと魔法騎士になってしまったフローラ。彼女を見出したブレナンは得意げで今でも古株の座を守っている。
「もう一度、学園に通い直すのか?」
「いえ」
 首を軽く横に振るフローラ。
「その、あの、クリス様が教えてくださるそうです」
 それを口にした途端、面白いくらいに彼女の頬から首元にかけて赤く染まっていく。
「あの、クリス殿が?」
 アダムのその言葉にはいろんな意味の驚きが含まれていた。クリスが人に魔法を教えると言い出したこと。そして、なんとなくこの二人がうまくいっている感じがしたこと。さらに、それをフローラ自身もまんざらではないと思っていること。
「クリス殿がそう言っているのであれば、きちんと教育を受けた方がいい。その方が君の活躍の場も増える。シフトは俺の方で調整するから気にするな。むしろ、休みを増やすからそれの一日を魔法の教育に当ててもらえ。俺の方からもノルトには伝えておく」
「あ、はい。ありがとうございます」
 こうやって頭を下げる彼女は、本当に護衛騎士に適しているとも思えないくらい、頼りない。恐らく、あのサミュエルが惚れたのも、素直で自分についてきてくれるような彼女だから、だと思ったのだろう。
 だけどその彼女の中にある一本のしっかりとした芯を曲げるようなことはしなかったようだ。
 ジェシカの護衛騎士という任務。それを命に代えてでも全うするという彼女の決意。
< 55 / 254 >

この作品をシェア

pagetop