月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

大神官

 ブレンドレル魔法学院で、フレードリクから婚約破棄と聖女の称号剥奪を受けたティナが、姿を消してから一日が過ぎた頃──。

 セーデルルンド王国の王都にある、ラーシャルード神を崇拝する大神殿で、大神官オスカリウスが衛兵や神官たちに向かって声を荒げていた。

「クリスティナ様はまだ戻られんのかっ?!」

 その理由は、当代の聖女であるクリスティナが、学院から戻らず姿を消したからだ。
 オスカリウスがその報告を受けたのは翌日になってからであった。

「は、はい……っ、只今総力を上げて捜索中ですが、未だ足取りは掴めておりません」

 大神殿が騒がしくなるのは随分久しぶりだった。
 以前は脱走しようとしたクリスティナを探して、大神殿中が大騒ぎになることが度々あったのだ。

「くっ……! 一体どこへ行かれたのだ……! まさか誘拐された訳ではあるまいな……?!」

「いえ、その可能性は低いかと。わがラーシャルード教に盾突く組織などありませんし、大人しく捕まるようなクリスティナ様ではございません」

「それにもし聖女様がこの王都から連れ去られれば、こちらの魔道具に反応があるはずです」

「……うむ。確かに<腕輪>の指し示す位置は王都のままであるな。ならば、王都中を捜索させるのだ! 急げっ!!」

「はい! 直ちに!」

 神官の一人が慌てて部屋から出ていった。
 オスカリウスはその後姿を見守ると、やれやれといった様子で椅子に座り込む。
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