月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
 自由になったクリスティナが、ずっと建物の中に引き篭もるなどありえない。

 ──彼女なら、すぐにでもこの国を飛び出して──……。

 クリスティナの行動力をよく知るアレクシスは、そう考えて気が付いた。

(……! まさか、クリスティナ様は既に……っ!!)

 自分の考えが正しければ、クリスティナが見つからない事にも納得できる。

 冒険者ギルドの協力を得たクリスティナは冒険者と共に、既に王都から脱出しているのだ。
 ベルトルドなら簡単に冒険者登録もギルドカードも用意できる。クリスティナに新しい身分を与えることなど造作もないのだ。

(クソっ!! 私としたことが……っ!!)

 アレクシスは大急ぎで馬に乗り城壁へと向かう。今いる場所から一番近いのは隣国クロンクヴィストへ向かう街道へ出る城壁だ。

 破れかぶれでほとんど勘のようなものだったが、アレクシスは構わず馬を走らせた。

 もしクリスティナが全くの逆方向へ向かっていたとしても、捜し続ければ必ず再会できるとアレクシスは信じている。
 それぐらい、自分はクリスティナと強い絆を築いてきたし、縁を結んできた。そう簡単に壊れるような、壊せるような関係ではないはずだ。

 ……それなのに一体何故──! どうして自分が戻るまで神殿で待っていてくれなかったのか、どうして自分を置いて行ってしまったのか……!

 アレクシスは必死に馬を走らせながら、クリスティナを想う。
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