月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
 魔物相手か、剣同士の戦いしか経験がないアレクシスは、トールの多彩な攻撃に翻弄されてしまう。

(何だコイツはっ?! 学院の生徒がどうしてこんなに戦い慣れているっ?!)

 アレクシスはトールの攻撃を躱すのに精一杯で、攻撃するタイミングが中々掴めないことに焦り始める。

「聖騎士でも槍は苦手なんだ? 訓練不足じゃない?」

 攻撃を加えながらトールがアレクシスを煽る。その姿には余裕すら伺えた。

「舐めるなぁっ!!」

 トールに煽られ、怒り狂ったアレクシスの身体に魔力が宿る。剣技だけでは槍のような攻撃に苦戦すると判断したアレクシスが、魔法を行使したのだ。

 アレクシスの持つ剣が、魔力を帯びて青白く光る。さすがは聖騎士ということか、光り輝くその姿は神々しくすらあった。

「うーん、眩しいなぁ……」

 ラーシャルード教の信徒なら、泣いて喜び祈りを捧げる聖騎士が放つ光も、トールにとってはただのエフェクトに過ぎないらしい。なんだかとても鬱陶しそうだ。

「黙れっ!! お前のような異教徒はこの俺が殺すっ!!」

 さっきからラーシャルード神に対する信仰心や敬意が全く感じられないトールに対し、とうとうアレクシスの堪忍袋の緒が切れたようだ。
 アレクシスから放たれた強烈な殺気が、離れたところにいたティナにも届いてきた。
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