月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
「じゃあ、そろそろ出発しましょう。宿も取らないといけないしね」

「よーし! 出発すっか!」

 モルガンの合図で、馬車はクロンクヴィストの国境へと出発する。

 いつもの通りモルガンとトールは御者台で、ティナたちは馬車の中だ。

 ティナはトールに何か言葉を掛けたかったが、自分も関わっている可能性があると思うと、下手に言葉を掛ける訳にもいかず、躊躇ってしまった。

(トールに変化かぁ……。もしかしてイメチェン? ……なんて訳ないか)

 ティナなりにイロナの占いの意味を考えたが、当然ティナにはサッパリわからない。
 朝に眼鏡を外していたトールを見たからか、ついお馬鹿なことを考えてしまう。

 しかし、何があっても常に飄々としているトールが、占いの結果に酷く動揺していた。
 イロナの言う”変化”はトールにとって、それだけ怖いことなのかもしれない。

 正直、イロナに占いの意味を聞いてみたい気もするが、当然イロナは教えてくれないだろう。

「アウムー!」

「わふわふっ!」

 アネタとアウルムがじゃれ合う姿を見ながら、ティナはいつかトールが自分に占いの意味を教えてくれたら良いな、と思う。



 しばらく馬車に揺られていると、森が開け、幾つかの建物が見えてきた。どうやら国境にある街へと到着したらしい。

 沢山の人が行き交う街の中を馬車で進んでいくと、隣国クロンクヴィストへと繋がる大きな門が見えてきた。

 クロンクヴィスト王国はセーデルルンド王国のよりも広い国土を持ち、今いる国境の反対側には、広大な山脈と針葉樹の森などの大自然が広がっているという。
 ティナはまず、この護衛の仕事が終わればその辺りを冒険したいと考えている。

(月下草の栽培場所が見付かれば良いな……)

 ティナが胸を躍らせながら、国境の門を眺めている傍らで、トールは緊張した面持ちで、馬車を走らせていたのだった。
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