月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

過去4

※話の後半に残酷描写あります。苦手な方はご注意ください。




 トールを殺すために、正妃が送り込んできた暗殺者の数は軽く三桁を超えていた。
 それは暗殺者を雇う資金だけで、下手な貴族なら破産しているほどの金額だ。

 正妃はそこまでして、第一王子を王位につけたいのだろう。その執念の凄まじさだけは賞賛に値すると、トールは思っている。

 しかし、正妃が雇った手練れ揃いの暗殺者百人以上を相手に、ヴァルナルとリナが無事でいるとは、トールはとてもじゃないが思えなかった。

 だけどヴァルナルはS級並みの剣士で、リナはA級の魔術師だ。二人の強さならもしかすると、暗殺者たちを倒せるかもしれない──! 

 正直なところ、トールはヴァルナルたちの生存を諦めていた。だが、ティナの一言がトールに希望を与えたのだ。

「ティナ、ヴァルナルさんたちのところに──……」

──戻ろう、と言いかけたトールは、すんでのところで押し黙る。

「トール? どうしたの?」

 きょとん、とした表情でティナがトールの顔を覗き込む。

「……何でもないよ。ティナは僕と近くの街に助けを呼びに行こう」

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