月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
 トールが取り込んだのは貴族たちだけではなかった。トールは彼の兄で第一王子であるフロレンツと親交を深めていったのだ。

 フロレンツの母であった正妃は身分剥奪の上、孤島に幽閉されることになったが、フロレンツには罪はないと、今まで通り第一王子として王宮で暮らすことになった。

 実際、フロレンツは正妃からの凄まじいプレッシャーで、かなり気弱な性格に育っていた。何をするにしても正妃がいちいち口を出していたので、自分から何かをしようと考えることが出来なかったのだ。

 そんなフロレンツは、自ら進んで剣術や魔術、勉学に励むトールに感銘を受け、弟なのにトールを尊敬するようになった。

 トールとフロレンツは王位継承権を持ち、玉座を巡って競争しなければならないのだが、お互い王座に全く興味がなかったので、争いなど起こるはずもなく。

 フロレンツはトール至上主義で、トールが望めば継承権を放棄しそうな勢いだし、トールはトールでティナ至上主義で、彼女を守るために必要なら、国王になってもいいかな、という程度だったからだ。

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