月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

月下草

 ティナが呆然と箱の中身を眺めていると、キラキラした白金貨と宝石に紛れて、古びた袋のようなものがあることに気がついた。

 それは年季が入っている小さい革の袋で、中に何かが入ってるようだった。

「これは……?」

 ティナが袋の紐をほどき中を覗いてみると、折り畳まれた紙が何枚かと種のようなものが入っている。
 袋から紙を取り出し広げてみると、綺麗な花の絵とその花についての説明が書かれていた。きっと一緒に入っている種がその花なのだろう。

「……月下草?」

 紙に書かれている内容によると、月下草は”幻の花”と呼ばれており、万病に効く万能薬の原料になると言われている、とても希少な植物らしい。
 月の光を浴びないと開花せず、しかも採取できる場所が限られているので、簡単に栽培が出来ないそうだ。

「へえ! これが月下草の種なんだ。始めて見たよ。ものすごく貴重な植物のだし、手に入れるのは大変だっただろうな」

 万能薬の材料である月下草は、錬金術学会や魔術師協会、治癒を行う神殿など、世界中の機関が欲しがる植物だ。
 しかし自生場所が限られているため栽培が出来ず、年々収穫量が低下しているので、希少性がどんどん高くなっているのだと、ベルトルドが教えてくれた。
< 29 / 616 >

この作品をシェア

pagetop