月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

別れ


 トールから失った記憶の内容を聞いたティナは愕然とする。

 十二年も前にトールと出会い一緒に旅をしていて、しかも事件後ティナと一緒に保護され、その後姿を消した子供が、まさかトールだったとは夢にも思わなかったのだ。

 しかもトールはティナが記憶を失っていても、”約束”を守っていてくれた──そう考えると、心の底から嬉しい反面、今までどれだけ”約束”がトールを縛り、苦しめていたのか……想像するだけで胸が酷く痛んで仕方がない。

「……ごめ……っ、ごめん……っ! トール、ずっと大変だったよね……」

 ティナの瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちる。

「どうしてティナが謝るの? 悪いのは弱かった俺なのに」

「違う……っ! トールは何も悪く無い……っ!! 悪いのは正妃たちでしょう?!」

 トールは権力に目が眩んだ人間たちから命を狙われた被害者で、何一つ悪く無いはずなのに、今もなおヴァルナルたちが死んだのは自分のせいだと罪悪感に囚われている──ティナはそんな柵から、トールを解放してあげたいと切に思う。

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