月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
 アデラが起きた時にはきっと、身体は元通り元気になっているだろう。腰以外の悪いところも治癒したから、すごく驚くかもしれない。

「じゃあ、帰りますね。おやすみなさい、アデラさん」

 ティナは部屋の扉をそっと閉めると、アウルムと一緒に店を出た。

「アウルム、買い物の続きをしようか」

『うんー! 僕お肉食べたいよー!』

 アウルムはティナたちが話している間にまたお腹が空いたらしい。

「そういえば私もお腹が空いてるみたい。ついお話に夢中になっちゃった」

 アデラの店の居心地が良かったからか、気が付けばとっくに昼を過ぎていた。アウルムに言われ、ティナは自分のお腹も空いているのだとようやく自覚する。

「じゃあ、アウルムのオススメのお店を教えてくれる?」

「わかったー!」

 ティナはアデラに貰ったブレスレットを着けると、大通りへと繰り出した。

(またアデラさんのお店に行きたいな……)

 そして月下草探しの旅の途中、またクロンクヴィストに来ることがあれば、その時はアデラに会いに行こうと思う。



 ──この時のティナは知らなかった。アデラの店には簡単に辿り着けないよう隠蔽の術式が施されていたことを。
 そしてティナが治癒したことで、余命幾許も無いアデラを無意識に救っていたことを。
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